甌穴という言葉そのものがあまり知られていない。上の図に示すように、急流河川の河床を成す硬い岩盤があるとする。その河床の弱点となる部分を流れの砂利が少し削り取ると、次第にその凹みを大きめな砂利が更に削って深く、大きくしていく。その内に凹みは十分に深くなり、中に落ちた石は水流によって回転し、丸く深い穴を形成していく。これが甌穴で、小さなものは直径10cmから大きなものは直径3mに及ぶ。
急流の多い日本の河川では良く見られる。インターネットで「甌穴」を検索すると沢山のサイトをヒットする。それぞれ自慢の甌穴を写真で紹介しているが、最もインパクトの強いのは長崎県は五島列島北端に位置する斑(まだら)島の玉石甌穴だろう。この甌穴は河川でなく、海岸にあり、打ち寄せる波によって現在も形成されつつあるという、珍しい例である。〔斑島の玉石甌穴〕ここをクリックすれば、写真入りの「玉石様」紹介を見ることが出来る。この写真が気持ち悪い位の出来栄えで、玉石が目玉になった大きな目といったところである。何でも、この現象は6,000年前から継続しているそうであり、自然の不思議をつくづく感じ取ることが出来る。
日本の河川では、どこでも見られるのではないかと思われるくらいあちこちにあるが、外国ではあまり見たことがない。日本の河川のように、急流で、しかも河床が硬い岩盤で出来ている川は少ないからだろうか。全く別の目的でパプア・ニューギニアの北方にあるアドミラルティー諸島・マヌス島の水源地を訪ねた際、珍しく甌穴群を見つけた。 (写真2) がそれで、ちょっとした滝の下流にあるが、大小多数の甌穴が見える。中には横方向に掘られたものも見える。 (写真3) はそのクローズアップで、二つの小石が見られる。
日本では、たまたま群馬県吾妻郡中之条町にある四万温泉に泊まった帰り道、四万川の下流に「甌穴」の看板があり、立ち寄って写真を撮った。 (写真4) がそれであり、かなり大きめな甌穴が見える。その内、中規模のもののクローズアップが (写真5) である。
川下りで有名な埼玉県の長瀞には日本最大規模の甌穴があるということで、見学に行って見た。西武鉄道の西武秩父駅から秩父鉄道のお花畑駅に移り、長瀞駅から歩く事25分、水道橋と人道橋を兼ねた橋を渡って右岸に行くと、キャンプ場の最下流部に看板が立っている。(写真6)の看板に来歴が書かれている。
下流100mほどの右岸にその岩があり、(写真7)甌穴は河床よりは数m高いところにある。
看板の説明では、深さは4.7mとのことであるが、残念ながら中は殆ど砂で埋まっており、様子は見えない。(写真8)どうやら、地元の自治体はこうした学術的スポットには力を入れていないようである。
群馬県で「東洋のナイアガラ」と言われる「吹き割りの滝」は有名だが、ここは凝灰岩かと思われる比較的柔らかく、一体になった河床の岩質のせいか、甌穴が多く見られる。(写真9)観光客の皆さんは滝の方ばかりに気を取られ、甌穴に注意を向ける人は少ない。
近くで見ると、この甌穴、大きな岩塊にポツンと一つだけ穿たれており、大変珍しいし、形も典型的である。(写真10)今は川の本流は外れてしまっているから、この甌穴は恐らく数千年前に出来たものであろう。
ちょっと脱線するが、この吹き割りの滝の下流に般若に似た岩がある。(写真11)昔の人達が般若伝説を作らなかったのが不思議なほど良く出来ている。
皆様も次にどこかに旅行される際は、インターネットで予め調べて行かれれば、多分その近くに甌穴があるのではないかと思う。現象そのものと、その名前があまり知られておらず、反対に日本中に名所として、あるいは天然記念物として広く分布している珍しい例としてご紹介した。